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英国発の海外ドラマ、映画、音楽について語ります。

映画『リトル・ダンサー』からみる英国社会の現実

久しぶりに映画『リトル・ダンサー(原題・Billy Elliot) 』を見ました。

邦題よりも、原題の『Billy Elliot』の方がしっくりきます。

何度観ても感動して、いつも泣いてしまうこの映画。

今回は、この映画を通して、英国社会について探ってみましょう。


リトル・ダンサー


原題:BILLY ELLIOT
監督:スティーヴン・ダルドリー
主演:ジェイミー・ベル
公開:2000 年
1984年、英北部ダラムにある炭坑の町を舞台に、家族と暮らしながら、バレエ・ダンサーを目指す11歳の少年の姿を描く。

 

 

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英国の炭鉱争議


映画の背後にあるのは、1984年から1985年にかけて英国で起こった炭鉱争議です。

当時英国は経済の停滞と高い失業率から斜陽の国と呼ばれ、「鉄の女」サッチャー首相が自由主義経済政策を推進していました。

サッチャーは、炭鉱を大幅に合理化する案を発表し、それに反対する全国炭鉱組合による大規模なストライキが英国各地で行われました。

ビリーの家族が働く炭鉱でもストライキが行われ、労働者はピケを張って抗議活動を行っています。

炭鉱がある町というのは、町ぐるみで炭鉱を中心に経済がまわっており、町民は炭鉱で働いたり、炭鉱労働者向けのお店やサービス業を営むなど、いわば炭鉱が落とすお金で成り立っています。

ストライキによって、彼らは日々の賃金を犠牲にして、主義・主張を通そうとしているわけです。

しかし、サッチャー政権は強硬に政策を進め、組合の分裂などもあって、結果的にストライキは労働者側の敗北に終わり、多くの炭鉱が閉鎖に追い込まれました。

これ以降、英国では炭鉱業が衰退、ストライキなどの労働運動も減少することになるのでした。


英国のさまざまな格差

 

炭鉱労働者は、こてこての労働者階級(ワーキングクラス)です。

イギリス人、特にワーキングクラスでは、男子の習い事はサッカー、女子はバレエをやるというのが一般的。

ビリーの家の男たちは代々ボクシングをやり、マッチョに粗野に生きることが男らしいとすら考えています。

一方、バレエを教えるウィルキンソン先生は、中流階級(ミドルクラス)。

子供たちにバレエを教え、芸術にも理解があり、夫はリストラ中とはいえ、経済的にも家庭的にも余裕を感じます。

もちろん、労働者階級のなかにも芸術が趣味という人もいますが、日々の暮らしに精一杯でバレエやオペラを鑑賞したり、美術館に出かけるという余裕がないケースも少なくなく、そもそもそういう家庭のなかで育ってないので、芸術に馴染みがないという人々が多いのです。

また、英北部と南部、地方と都市の違いも感じられます。

日本でいうなら、関東と関西の違い、東京と地方の違いという感覚でしょう。

概して、北部は昔ながらの産業に従じ、南部に比べて所得も低く、生活は豊かではありません。

また、北部には伝統を重んじ、男は男らしく、女は女らしくという雰囲気があります。

北部の男からみれば、南部の男は格好ばかり気にする軟弱者なイメージなんでしょうかね。

ビリーは父親に連れられて、ロイヤルバレエ・スクールのオーディションのため、ロンドンに向かいます。

父親はロンドンに行くのが生まれて初めて。

おそらく、地元の町では、地元に生まれ育ち、ロンドンに行かないままで一生を終える人も多いのでしょう。

そんな地方の炭鉱の町で生まれ育った、ビリーがロイヤルバレエ・スクールに合格し、ロンドンで修行を積んで、ウェストエンドの舞台で主役を務めるということは、本当に大変なことであるのが読み取れます。



ホモフォビア


LGBTに理解があると思われるイギリスですが、それでも依然として差別があったりします。

この映画の舞台は1980年代の田舎町。

友達のマイケルが化粧している姿を見たビリーは思い切りびびって、「Are you puff?(おまえゲイなの?)」と彼に問いかけます。

バレエをやっているビリーですら、この態度ですからね。

ちなみに、うちの息子は14歳ですが、学校にはピンク色の文房具やイラストがついた鉛筆は持っていきません。

息子の言い分だと、そんなものを持っているのが見つかると、からかわれたり、ぼこぼこにされるんだとか。

本当にそれが理由で殴られるかどうかはわかりませんが、いまどきの子供たちでも、そんな調子なのです。


家族愛


ビリーの父と兄は炭鉱労働者です。

学校が終わると、ビリーはぼけぎみのおばあちゃんの世話をしています。

母親は他界してしまいました。

兄は弟を「Twat(バカ)」呼ばわりして気にかけもせず、父親も暴力的。

台所はぐちゃぐちゃで、家のなかは荒んだ雰囲気です。

暮らしは決して楽ではありません。

クリスマスの日、父親は部屋を暖めるための暖炉にくべる薪のかわりに、母親が愛用していたピアノを叩き壊します。

イギリス人にとって、クリスマスは特別の日。

少しでも暖かく、心地よく、クリスマスをお祝いしたいという、父親のせめてもの心配りなのです。

暖炉の前で家族がクリスマス・ディナーを食べるとき、思わず父親が涙するシーンには、こちらも涙を誘われます。

そんな頑固一徹で厳しかった父親が、ビリーのバレエ学校のお金を工面するために、自分の信条やプライドを捨てて、あえてスト破りをすることに。

暗い町、未来の見えない炭鉱産業。

ビリーの才能と可能性を見て、父親は何が何でもこの町から脱出させて、ダンサーとして成功させてあげたいという親心。

「俺達に未来はないけど、あいつにだけは!」

父親が兄にぶちまけるこのシーン、何度見ても、いつ見ても、泣いてしまいます。

父親の愛情は本当に深いものですね。

そして、今は亡き母親も、ビリーのなかでは、いつまでもそこにいる存在なのです。

母親の愛情も深い。

その後、がらりと変わった家族の結束度がまた素晴らしい。

台所や部屋はきれいに片づけられるようになり、父も兄もビリーのために協力を惜しまず。

地元の人々もビリーを応援するようになるのでした。


ビリーの感情を体現する音楽


サウンドトラックは、T・レックスの曲を中心に、ザ・クラッシュ、ザ・ジャム、スタイル・カウンシルなど。

スタイル・カウンシルといえば、ストライキを行う炭鉱労働者の支援のためのベネフィット・コンサートにも出演していましたっけ。

さて、オーディションの際に審査員から「踊ってる時はどんな気分?」と聞かれたビリー。

「わからない……。でも、とにかく踊り出すと何もかも忘れて、自分が消えます。
まるで自分が鳥になったみたいに……体に電気が走ったみたいな気分……」

このビリーの言葉が、まさにT・レックスの音楽とオーバーラップするのです。

冒頭で、T・レックスの「Cosmic Dancer」のレコードをかけながら、ベッドの上を飛び跳ねるビリー。

『12歳の頃、僕は踊っていた。生まれたときには踊っていた。そんなに早くから踊るのは間違っている?』

T・レックスの曲を原案にして、この映画を製作したのでは? と思うほど、曲とストーリーが絶妙にマッチするのです。

ビリーにとっての踊りは、怒りや悲しみ、嬉しさなど、自分の感情を吐き出すためのものであり、とにかく体を動かしたい、踊りたいという衝動がいっぱいで。

ビリーの夢と情熱は、家族やコミュニティ、彼の人生をもがらりと変え、おそらく映画を見たたくさんの人々にも影響を与えたであろうと思います。

いやはや、何度も見ても心温まる良い映画です。


いつもありがとうございます!


Billy Elliot Trailer


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